相続税の申告をして3年後、その内容も忘れかけた頃に税務署から突然手紙が届いた!?相続税の税務調査の流れと対策を解説します。


1.はじめに 〜税務署からの連絡は突然に〜

ある日、ポストを開けると「○○税務署」からの封筒が。
「え、なにこれ……税務署!?まさか脱税とかしてないけど!?えっ、私、何かした……?」

でも安心してください。
これはあなただけではありません。相続税の申告をした方の中には、毎年一定数の方が「税務調査の対象」として選ばれています。

税務署は悪いことをした人を捕まえるというより、「ちゃんと申告してるか確認させてくださいね」という意味合いで税務調査をすることがほとんどです。

税務調査を心配しているお客様がとても多いので、今回はそんな相続税の「税務調査」について、
・どんな人が対象になるのか?
・調査はどんな流れで行われるのか?
・当日はどんなことを聞かれるのか?
といった疑問に、税理士の目線から解説していきます。

2.そもそも「税務調査」って何?こわいの?

税務調査と聞くと、「脱税を暴く!」みたいなTVドラマや映画を思い浮かべるかもしれませんが、実際はもっと静かで事務的なやりとりが中心です。
税務署の目的は「正しい税金を納めてもらうこと」。だから、税務調査はあくまで「確認」なんです。わたしも税理士になりたてで初めての税務調査はとても緊張しました。
そのためお客様の気持ちはとてもわかります。皆さんとても緊張されています。でも大丈夫です。無許可で家のタンスや棚をあけたり、怒鳴られる、家の中を荒らすなんてことは絶対にありません。

それではなんで映画やドラマの税務調査は怖いの?と疑問にもたれると思います。

実際の税務調査には2種類あるんです。

①任意調査:ほとんどの相続税の調査はこちら。税務署から「ちょっとお話聞かせてください」というパターン。

②強制調査:マルサ(国税局査察部)が入るやつ。これは完全に別世界。一般の方はほぼ無関係です。⇒ドラマや映画はこちらです。

あなたのところに来るとしたら、ほぼ100%「任意調査」です。
任意と言っても「いや、今回は結構です」とは言えないので、実質、「優しい強制の会議」みたいなイメージです(笑)。

3.調査対象になるのは、どんな人

実は、すべての申告書を1枚ずつ税務署が人の目で見ているわけではありません。
税務署には「申告書選定のプロ」がいて、AI的な分析やデータを使って申告の内容に「ちょっと気になる点」があるものをピックアップします。

◎対象になりやすいケース

・遺産総額が多い方
・預金の動きが不自然(生前に大きなお金の移動があるがその内容が不明・贈与申告されていない)
・不動産の評価・株式の評価が低すぎる
・名義預金がある可能性(例:母の口座なのにお金の出入りが全部子ども)
・申告書にミスが多い、添付資料が少ない
・納税者自身で申告書を作成している
・国外財産がある

簡単に言えば、申告された金額が過少であったり、財産の申告漏れがありそうなので、相続人の方から話を聞いて確認をしてみようという感じです。

4.税務署からの“招待状”が届いたら

さて、もしあなたの家に税務署からのお手紙(または電話)が届いたら。
「こんにちは。○○税務署です。相続税の申告について、少しお話を伺いたく…」

◎事前通知とは?

税務署は、いきなり家に押しかけることはほとんどありません。
通常は「○月○日に調査に伺いたいのですが、ご都合いかがでしょうか?」という連絡があります。
この連絡は、税理士又は納税者へ入ります。申告をしてから2~3年で入ることがほとんどです。3年を超して連絡が入ることはほとんどありません。

この時点で慌てて通帳をかき集めたり、家中の書類を探したりする人が多いのですが焦らなくても大丈夫です。
先ほどもお話をしましたが、確認のための税務調査がほとんどです。
連絡が来てから調査までで時間がありますので、指摘される可能性がある箇所を事前に確認をします。
また調査官によっては具体的に確認をしたい内容を教えてくれることがあります。たとえば、海外財産があるようだ、名義預金がありそうだ、実際もっと現金があるのでは等々。

相続人の方が知らなった財産が発覚するのが税務調査だったりします。

5.税務調査、当日のリアルな流れ

さて、ついに「その日」がやってきました。
税務署の職員(通称:調査官)がご自宅、または税理士事務所にやってきます。午前中から始まることが多いです。

◎調査官ってどんな人?

「黒スーツで腕を組んで、鋭い目つき…」みたいなイメージがあるかもしれませんが、実際はもっと穏やかで落ち着いた雰囲気の方がほとんどです。
たまに新人さんも一緒に来ます(2人で来るのが一般的です)。

◎当日の流れ(だいたいこんな感じです)

① 名刺交換&ご挨拶

「本日はよろしくお願いします」と丁寧に始まります。そして、調査が午前中までかかるのか午後までかかるのかはど終わる目安を教えてくれます。
簡単な税務調査の場合午前中で終まります。

② 調査官との会話

まず初めに、亡くなられた方の生まれてから亡くなるまでの経歴、趣味、お金の使い方、相続人の方の経歴を聞かれます。
次に、「亡くなった方の財産の管理状況はどうでしたか?」「預金はどなたが管理していましたか?」「入院期間のお金の支払いなどはどうしていましたか?」
など、生活の中で自然な流れを確認していきます。
そしていよいよ本題の調査官がもっとも気になっているポイントへと調査が流れていきます。

③ 資料の確認

通帳・取引履歴・土地の資料・保険証券など、提出済みの申告書と照らし合わせてチェックします。

④ 気になる点の質問

名義預金っぽい口座について、「この口座、管理していたのはどなたですか?」
土地の評価について、「この評価はご自身で?それとも税理士?」
「海外に財産があるようなのですがご存じですか?」
など、ピンポイントで聞かれることもあります。

⑤ 調査終了のご挨拶

最後に、「本日の内容をもとに、改めてご連絡します」と伝えられて終了。

ご自宅のリビングなどのテーブルに座って話を聞きテーブル上で資料を確認して終わることがほとんです。

たまにご自宅の中を見せてくださいといわれるケースがあります。この場合には相続人、税理士、調査官の全員で部屋を移動します。棚やタンスを開ける際には、「この中を見せていただいてもよろしいですか?」と確認が入ります。(勝手に開けられることはありません。)

私が経験した中では、亡くなられた方が使用されていたタンスを開けることはありましたが、相続人の方が現在使用中の棚やタンスを開けたり、部屋の奥までずけずけと入るということはありませんでした。

また、女性の相続人の方の場合には、男性だけで部屋を回られることに抵抗がある方も多いと思いますで弊事務所では女性税理士も同行させていただいております。

◎税理士が立ち会うとどうなる?

税務調査には、税理士の立ち会いがとても有効です。税務署とのやりとりを相続人でなく、税理士が行わせていただきます。

また、調査の内容にも適切に対応・補足をさせていただきます。
税理士が同席することで、雰囲気がガラッと変わって安心したという声もよくいただきます。

6.調査後の「結果」と対応の流れ

さて、調査が終わったらホッと一息……ではありますが、もう一段階あります。
調査の中でわからなった事項を確認して後日教えてくださいと課題を伝えられるケースがあります。
この場合には相続人と税理士で協力して調査をし、調査官へ後日電話や書類などをお送りして対応します。

◎数週間後、税務署から「調査結果のお知らせ」

調査の内容をもとに、税務署は「追徴が必要かどうか」を判断します。

① 指摘がなかった場合(=是認)

「問題ありませんでした」となれば、調査はこれで終了。ひそかにガッツポーズしてOKです!

② 修正申告が必要な場合(=申告漏れなど)

税理士が修正申告書を作成、不足分の税金を納付かつ加算税・延滞税を納付します。

※加算税ってどれくらい?

過少申告加算税:通常10%(悪質な場合は15〜20%)

延滞税:納付の遅れに応じて課されます。

重加算税:35%又は40% ※重加算税の対象は、意図的は脱税や悪質な場合です。

7.まとめ 〜税務調査は“怖くない”けど、“準備は大切”〜

相続税の税務調査、実際に体験するとわかるのですが、
・調査官は意外と穏やか
・ちゃんと説明できれば問題なし
・専門家がいれば、ほとんどのやりとりは代行してくれる

つまり、「正しく申告」+「しっかり準備」+「税理士に相談」これで、大きな問題になるケースはかなり減ります。

8.最後に一言

税務署からの通知が来たとき、「なんで私が…」と思う気持ちは、痛いほどわかります。
でも、安心してください。税務調査は「戦い」ではなく、ほどんどが調査官、相続人、税理士の確認作業になります。